誰にでも巡ってくる美しい夏の日に
誰にでも巡ってくる美しい夏の日に

誰にでも巡ってくる美しい夏の日に

44/1000 「ハローサマー、グッドバイ」マイクル・コーニイ

真冬に夏の話をするのもなんなんだけど、輝いているのは夏なんだよね。

 

子どもの毎日はゆっくり過ぎていき、一年のあいだにはたくさんのことが起こるのに、母はさっきあんなことをいったけど、ブラウンアイズもぼくも相手のことをほとんど知らない。ぼくたちは昨年の夏休暇の最後の二、三日に、やっとおたがいに口をきくようになっただけだった。ぼくたちくらいの歳の子どもは、そこまで引っ込み思案になることがある。

この物語は、地球の話ではなくて「異星人の住む惑星」での話で、作者が言うように「恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説」なのだけど、読んでいくうちにそんなことはどうでもよくなる。

もし10代のころこの物語を読んでいたとしたら、ブラウンアイズの姿が消えたあたりで号泣しただろうけれど、残念。あまりにも年を取り過ぎました。

この物語はだれもが一度は通り過ぎる、子供から大人への通り道、美しい夏の物語。これは恋愛小説でも戦争小説でもSF小説でもありません。心の若さを測る物語。

役人の息子ドローヴは夏の間、親に連れられて別荘のあるパラークシという港町で過ごすことになります。その町で昨年の夏に知り合ったブラウンアイズという少女と再会します。

実際パラークシに着くまでの話は冗長で面白くないのだけど、パラークシでのブラウンアイズと彼女のまわりの少年少女たちとの冒険は心弾みます。この辺りの物語はとても美しい夏の世界です。生き生きと明るく楽しくて。

いろんな経験をしていくうちに大人の世界をチラチラ垣間見ることになります。それでもドローヴは純粋さを失わないのですが、一気に冬の世界へとかわります。大人の世界は子供の想像を超えてますが、現実は大人の想像さえ超えてます。

最後はそうだろうなという結末へ収束していくのだけど、これはハッピーエンドにはならないだろうと思った通りでした。読後感は暗くなく、未来が多少とも明るく感じられました。

おすすめです。

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