「雨が好きだ」
(「雨が好き」高橋洋子)
その人は言った。
私は雨が好きか嫌いか考えたこともなかった。どちらかと言えば、わずらわしい日ぐらいとしか思っていなかった。しかし、こうしてフロントグラスに散る雨を見ていると、不思議と雨に誘われた。美しい、とも思った。しばらくして私は答えた。
「私も好き」
伯母は一の坂川沿いの昔ながらの家に住んでいて、学校帰りに時々寄ってはお茶をごちそうになって、推理小説好きの彼女から松本清張などの本を貸してもらったりしていました。ある時、退学した友人の話をしていると、たまたま伯母の知り合いの息子さんだということで、自宅の電話番号を教えてもらったことがありました。
伯母も亡くなってもう何十年にもなります。今日雨に濡れる久しぶりに見るその家は(借家だったのだけど)当時とちっとも変わってないように見えました。
今年は桜を見に来ることができなくて、遅くなった一の坂川は、雨で水量が多くごうごうと音を立てて流れて、生い茂る草を水に飲みこみながら、荒々しく流れていました。
では。