冬の終わりの前に「阿寒に果つ」を読みました。
冬の終わりの前に「阿寒に果つ」を読みました。

冬の終わりの前に「阿寒に果つ」を読みました。

橋本奈々未の恋する文学#5 『 阿寒に果つ』 2016.3.18

雪の阿寒湖で、18歳という若さで自殺を遂げた時任純子。「天才少女画家」として、画壇で注目を集めた早熟な純子はなぜ死を選ばなければならなかったのか――
高校の同級生だった彼女に翻弄された作家が、死後20年を経て彼女と関係のあった4人の男と、純子の姉を訪ねてその真相に迫ろうとする。

渡辺淳一 恋愛小説セレクション 2 阿寒に果つ/渡辺 淳一 | 集英社 ― SHUEISHA ―

大学生になって都会に出てきて、まだ人生に希望と期待をもって明るい将来を夢見ていた頃、

目にするものが何もかも目新しくて、あらゆることに胸が躍っていた頃、

大学の友人と、友人の彼女とで「阿寒に果つ」の映画を見に行きました。

なぜ友人の彼女がいたかというと、友人には目の病気があって高校の時から彼女が友人をサポート役をはたしていたからです。

時間がたつと記憶は薄れていきます。

映画の内容はすでに忘れてしまいましたが、彼の文学的な教養がわたしにないものであったのと、珍しい病気と闘っていること、彼女がいるということ、それらの状況がとても刺激的でした。

なのでこの物語は内容と同時に彼らの事を思い出させるのです。

今はもう彼らに会うこともかないませんが。

天才少女画家とよばれた「時任純子」は文化人がたむろするという喫茶店「ミレット」に自由に出入りしています。

当時の喫茶店は今と違ってチェーン店ではなくて、中学生や高校生が気軽に入れるところじゃありません。

喫茶店が特別な場所である上に、文化人が集まるようなサロン的な店は真面目な高校生「田辺俊一」くんにとっては異世界。

絵を描くだけでなく展覧会で入選するような彼女も別世界の住人。

学校の授業に出席しないのも自分とは全く違う世界の人間だと思えば気にならない。

ところがある日そのよその世界の住人、純子から主人公「田辺俊一」くんは手紙をもらいます。

1日早いけど、誕生日おめでとう。明日貴男の誕生日、祝ってあげる。午後六時に、ミレットに来て、純子 

P15

その後、田辺俊一くんは彼のポケットに手を入れてきた純子の手を戸惑いながら握ります。ポプラの木の下でキスをして、図書館で隠れてウィスキーを飲みタバコを吸うようになります。

危険な香りしかしません。誘惑されてます。謎の多い女性に妖しい大人の世界を覗かされてます。

うん、これはもう誰が考えても駄目でしょう。恋に恋するというやつです。恋は盲目というやつです。

この物語は田辺俊一の「若き作家の章」が柱になって純子にかかわった6人から見た純子を描いています。

人は所属する集団場所(たとえば仕事とプライベートのように)によって顔を変えますね。性格まで完全に変えることができませんが、行動や発言は違ってきます。

同級生の視点から見た「若き作家の章」が青春していて好きですね。純子の絵の先生である妻子ある男性との視点もどろどろして面白いけれど、新聞記者の成熟したオス、大人の男性の視点は好みじゃありませんでした。姉の視点からの物語は今でいうTLみたいで少しどきどきします。

実話に基づいているとのことですが、自殺の原因は渡辺淳一の出した結論

終始、純子は純子であったのだ。

P374

となるのですが、これでもよくわかりませんね。

純子は淫乱なわたしを

止めて、わたしを止めて!。だれでもいいからわたしを止めて!。

と言っているような気がします。自分で自分を止められないから男たちに助けを求めたのじゃないかな。

田辺くんにしても、その他の男たちも姉も自分の事しか考えていないので純子の心の叫びに気がつけなかった。誰も純子を助けられなかった。

(ただ失恋を忘れるために男に溺れただけかもしれませんが。)

雪に埋もれて純子は死ぬのですが、雪で汚れは隠せません。雪が解けて赤いオーバーはさらに目立ちます。

なんやかや書きましたが年を取るにつれてこの小説はより好きになってきますね。またいつか読み返しましょう。

本は手に入りますが、(映画の評判はあまりよくなかったようで)DVDは出ていないのでもはや見ることはできません。

では。