25/1000 「夜の樹」トルーマン・カポーティ
彼女は、ハイ・ヒールが玄関の大理石の床にカチカチ音をたてると、グラスの中でガチャガチャする角氷を思い出し、入口の壺に生けてあったあの秋の菊の花までが、手を触れれば、きっとこなごなに砕けて、氷の粉末になってしまうだろう、と思った。
これまで読んだカポーティの本は「遠い声遠い部屋」だけです。高校生の時読んで、その何年後かにもう一度読見返しました。ものすごく気に入っている本でも滅多に読み返さないので、私にとっては珍しいことです。
今この本は電子書籍になっていないので、確認できなくて記憶が曖昧なのだけど、いかにもアメリカっぽい田舎で父親探しをする少年の話だったような記憶があります。
その封筒を引きさいてみると、中には、一枚のドル紙幣を包んだ空色の便箋がはいっていて、その上には、「五ドル――夢一つの代金」と記してあった。Read more at location 131
昨日の午後、六時のバスがミス・バビットを轢き殺した。Read more at location 566
見ると、ミリアムはこの前と同じ濃い紫色のビロードのコートを着ていたが、今晩はそれと似合いのベレー帽もかぶっていた。白い髪の毛を、まばゆいばかりの二本のおさげに編み、その両端をとても大きな白いリボンで輪のように結んでいたRead more at location 1961
ケイはあくびをし、窓ガラスに額をもたせかけ、所在なさそうに指でギターをかき鳴らした。絃はうつろな、眠気をさそうような音をたてた――窓の外を流れすぎて行く、とっぷりと闇の中に沈んだ南部の風景と同じように、それは単調で気を鎮めるような音色だった。凍りついたような冬の月が、汽車の上に広がる夜空を、真っ白い薄べったい車輪のように転がっていくRead more at location 3190
どれもこれも真似したくなるような表現ばかりです。言葉は簡単でわかりやすいのだけどもね。
この「夜の樹」は8つの物語を収めた短編集です。カポーティの言葉は難しくはないのだけれど、文章になるとなかなか頭に入ってきませんでした。1つの物語を読み終わるとその物語を繰り返し読み返しました。何度も読み返しをするので1編ずつしか読めませんでした。
他の本を読みながら1週間でひとつだけ物語を読んで、また次を読むのに1週間という感じです。アメリカの情景がすんなりと頭に浮かばなかったのが原因ですが、脳のめぐりが悪くなったのかもしれませんね。老いったってことかな。全部読むのに2ヶ月かかりました。
短編集なのでどこから読んでもよかったのだけど、順番で最初に読んだのが冒頭の「夢を売る女」です。カポーティはもっと現実的な話を書く人だと思っていたのでちょっととまどいました。これはいかにもありそうでなさそうな夢が売れた話です。
「ミリアム」はまるでホラーです。とても怖い。「夜の樹」も同じくです。
kindle unlimited 買うと540円。