84/1000「夏が逝く瞬間」原田伊織
誰にでも光り輝く夏の一瞬があるものです。これもまた人生の夏の物語。
水道場まで来て、ハッとした。 水道場の先の正面昇降口の脇に木津香織が、身体を昇降口の壁に預けて軽く両手を組んで庭球部の練習を視ている。教室履きのサンダルのままだ。 タイトスカートの曲線とその下の白い脚の直線が眩しかった。
物語は昭和35年。琵琶湖の東岸の山村に住む男子中学生14才が主人公。著者は京都出身なので自伝的な部分もあるのかもしれない。
母親の通知表に書かれた士族の文字を見て、武士の流れであれば切腹をしなければならないと思い、そのことを悩むような実直さを持っています。問題児ではあるけれど成績は優秀でスポーツは万能。
本格的なテニスをプレイする29才の女性教諭香織。既婚で子供もいる。いい匂いをしている。自己の主張を曲げない真っ直ぐな性格の主人公は、テニスをやっていた一回りも上の女性教師に惹かれ、また、彼女もまっすぐな彼を見守っていく。
文章はである調で、郷土の歴史が語られる文章は、硬質でふわふわした感じはない。その枕が主人公の性格付けと時代背景を語るのにふさわしい。
もって回った言い回しではないので読みにくくはありません。この時代、昭和中期に書かれた小説であっても不思議はないです。
一瞬の夏は憧れと情熱で性急で暑い。これは彼女の視点で書かれたとしたら、冷静で穏やかなものになるのだろうか?。純粋さを失ってどろどろした物になるような気がしますね。
kindle unlimitedで。買うと1000円。新装版もでてます。こちらは紙の本で1620円。